第5回光スビニクス専門研究会

磁性ドットの新作製法

日 時: 平成7年12月12日(火)14:00-17:30
場 所: 東京工業大学 大岡山キャンパス 南3号館2階
  電気・情報系会議室
参加者: 30名

近年,磁性の分野においても,半導体における量子細線や量 予ドットのように,ナノスケールの微細構造を面内で(2次元 的に)作製する試みがなされている.現在・研究が盛んな人工 格子膜が膜厚方向に原子を周期的に積層した1次元格子とす るならば,これは面内にも周期性を取り入れた2次元格子,さ らには3次元格子への夢につなげる研究といえる.研究は始 まったばかりであるが,最近,電子線リソグラフィやSTMを 用いたナノスケールの磁性細線やドットの作製が報告されるよ うになり,今後,作製技術の確立,ならびにこれらの微細構造 やサイズ効果から発現する新しい物性やそのデバイスへの応用 が期待される。そこで,今回の研究会ではナノスケールの磁性 ドットに関して・作製法を中心に,その構造や特性に関して, 以下の4件講演がなされ,活発な議論が行われた.

1. 磁性ドットについて 佐藤勝昭(農工大)
2. 二次元超伝導薄膜上に作製した磁性ドット格子の磁気・伝導特性 大谷義近(東北大)
3. Au(III)再配列表面上へのCoドット配列の作製 竹下弘人(融合研/日大),鈴木菱茂(融合研)
4. 走査型プロープ顕微鏡を用いたナノスケール磁性ドットの作製 別所和宏(ソニー中研)
まず研究会の導入として農工大の佐藤氏が磁性体のドットお よびナノ構造一般に関し,上記のように,従来の1次元的横層構造から2次元,3次元的構造へと発展しつつあり・作製法,評価法,応用とも全く新しい発展がなされつつあることが指摘され,引き続く講演の意識が解説された.東北大の大谷義近氏からは,電子線ソグラフィー法を用いて,ミクロンサイズの希土類遷移金属合金微粒子格子を2次元 超伝導薄膜(Nb)上に作製し,超伝導転移点以上での磁気微粒子格子の磁気・磁気光学特性,磁気微粒子内磁区構造および転移点以下での微粒子の作る周期的な局所磁場の超伝導体に及ぼす影響を調べた研究が紹介された.このような格子系では双極子相互作用を通じて雪崩的磁化反転過程が現れ,格子による回折光強度を横磁気カー効果の配置で測定することによって微粒子内の平均磁区構造を求めることができる.また,磁気微粒子格子の周期構造を反映した局所磁場が直下の超伝導薄膜の超伝 導状態を周期的に変調することが実験・計算の両面からも明ら かにされている。このように超伝導と磁性・磁気光学効果をつ なぐ研究分野が展開されつつあり大変興味深い.

日大の竹下氏からは,Au(111)面上へのCoドットの作製方 法と磁気光学効果の測定結果が報告された.Auの(111)テクスチャー膜および(111)エピタキシャル膜上に,超高真空下で 0.5原子層相当のCoを菰着した場合に,前者ではステップのエッジに,後者では表面再配列構造の角の部分に,ある間隔で Coが核生成し直径数十A以下のドットが形成されることが STMにより観測されている.これは,下地表面の再配列構造に依存して原子がいわば自己組織化する現象を利用したもので,比較的広い面内にー度に多数のドットを作製できる興味深 い方法といえる.また,作製されたCoドットの電子状態の変化に起因すると思われる磁気光学スペクトルの変化も見い出さ れており,作製法のプラツシュァップと同時にその物性解明に も今後の期待が持たれる.

ソニーの別所氏からは,SPM(走査プロープ顕微鏡)による 磁性ドットの作製に関する報告があった.AFMの探針にCo, FeINiなどの磁性膜をコートし,大気中で探針と基板の間にパルス電圧を印加すると控針の先から電界蒸発によって磁性元素が飛び,基板表面に直径数百から数十Aのドットを再現性良 く形成することが見い出されている.また,作製されたCo ドットについて,同じ装置をMFMとして用い,ドットからの磁気的レスポンスが観測された.超高真空中でも同様な結果が得られるものの大気中に比べまだ再現性が悪いとのことで,本 現象の機構と関連しているようである。大量のドットをー度に作製する点については必ずしも適しているとはいえないが,オリジナリティあふれる研究であり,今後の進展が期待される.講演発表の後,四名の講師と全参加者による総合討議がなされ,活発な意見交換が行われた. (東工大:阿部正紀,ソニー:橋本俊一)