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生体磁気(中・上級)

Question
Q1.
着磁したNd磁石を手作業で組みつける仕事を日常的に行っていますが、身体への影響はあるのでしょうか?
Q2.
病院でMR検査、MRIなど大きな磁石の中に人が入って脳の腫瘍などの検査をすることがあります。 このMRIはどういう原理や仕組みなのでしょうか?

Answer

Q 1
着磁したNd磁石を手作業で組みつける仕事を日常的に行っていますが、身体への影響はあるのでしょうか?
A 1.

Nd磁石を手作業で組みつける仕事の場合、磁界変化により人体に低周波の誘導電流が生じる可能性があります。 このような磁界あるいは電界による曝露に対する規制に関しては、国際非電離放射線防護委員会(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection)のまとめたガイドラインがあります(注)。
それによると、周波数が数Hzから1kHzの範囲では、100mAm-2を超える誘導電流密度レベルは、中枢神経系興奮の急性変化および視覚誘発電位の反転などの急性影響の閾値を超えるとし、職業的曝露の場合、 4Hzから1kHzの範囲において誘導電流密度10 mAm-2なる基本制限を設けています。(安全係数を10としています。) 4Hz以下では制限は緩くなり、1~4Hzで40/f mAm-2 (ただしfはHzを単位とした周波数)、1Hz以下では40 mAm-2です。

実際に体内の誘導電流を計測することは難しいので、ガイドラインでは数学的モデルなどを用いて基本制限から導き出した“参考レベル”を示しています。 参考レベルは、誘導電流のかわりに測定可能な電界強度や磁界強度で示されます。 これは想定される曝露状態で最悪な場合における全身についての空間的平均値であって、このレベルに以下であることが推奨されています。 周波数1Hz以下での職業的暴露の参考レベルは2000ガウスとなっています。

さて、Nd磁石を組みつける作業について考えてみましょう。着磁した磁石を移動させることは周囲の磁界を時間的に変化させることと同じですので、作業者は上記ガイドラインにおける超低周波の磁界の影響を受けることになります。 ただし手作業ですから周波数は1Hz以下と考えてよいでしょう。したがって、ガイドラインの1 Hz以下、2000 ガウス以下の規制となります。ただし、ガイドラインの参考レベルでは身体全体が時間変化する磁界に曝された状態を想定しています。

例えば、50 mm角ブロックで残留磁束密度が1.45 テスラのNd磁石(高特性グレード)について、磁石表面からの距離と発生される磁界の関係を調べてみます。(下図参照)
この例では比較的大きなブロックであるにもかかわらず、磁石から25 mm程度までしか2000ガウス以上になりません。ガイドラインでは中枢神経および視覚に曝露の影響が見られるとしていることから、人体の頭部および頚部への曝露量が重要であると考えられます。

しかし2000ガウス以上は25mm以内ですので、頭蓋骨があることも考慮すると、磁石を頭部に接触させない限り脳に対しては参考レベルには達しないと言えます。 着磁した磁石を扱う作業においてこのような状態になることは考えにくく、通常の作業を行う分には中枢神経への磁界の影響は少ないと考えられます。
ただし、作業中に磁石を持っている手の付近は磁界も強くなります。しかし、ガイドラインには手足の末梢神経に関する記載はありません。

この他に、発がんへの影響や生殖への有害な影響(ただし商用周波数程度の電磁界)に対するいくつかの報告も出されていますが、国際非電離放射線防護委員会では説得力のある、または一貫性のある証拠がないのでそれらのデータを曝露ガイドライン策定の根拠に用いることはできないと結論付けています。
なお、ペースメーカー・補綴用金属・人工内耳などの医療装置との電磁干渉に関しては別の基準がありますので注意が必要です。

磁石表面からの距離と発生される磁界の関係グラフ

磁石表面からの距離と発生される磁界の関係

注:
国際非電離放射線防護委員会は1992年に国際放射線防護学会から独立専門組織として設立されました。様々な種類の非電離放射線(NIR)に関連する可能性の考えられる生体影響を調査し、NIR暴露限度に関する国際指針を作成し、NIR防護のあらゆる問題を扱うために活動しています。Webサイトはhttp://www.icnirp.de/です。
上記解答で参考にしたガイドラインはhttp://www.icnirp.de/pubEMF.htmよりダウンロードできます。(日本語版もあります。)

>回答作成:平成16年度MSJ企画委員会

Q 2
病院でMR検査、MRIなど大きな磁石の中に人が入って脳の腫瘍などの検査をすることがあります。 このMRIはどういう原理や仕組みなのでしょうか?
A 2.

まずMRですがこれはMagnetic Resonanceの略で、磁気共鳴といいます。
その磁気共鳴の中でも核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)の原理に基づき、水素原子核(プロトン)の状態を調べることにより、体の状態を知ることが出来ます。 プロトンは水(H2O)に必ずふくまれており、この原子の核磁気共鳴状態を調べることにより、そのプロトン原子の周りの状態が健康状態か、そうでないかがわかります。これにより異常部分の診断が可能になるものです。

MRIはMagnetic Resonance Imagingといい、核磁気共鳴の状態、しいては体内のプロトンの空間分布の状態を画像化して、示す手法です。
まず、核磁気共鳴の原理ですが、ある原子核が静磁場中に置かれると、核の持つスピンは磁場の方向に平行・反平行の状態の2つの状態のうちエネルギーが低い平行状態にそろいます。

図1

この2つの状態のエネルギー差を考えてみましょう。これはゼーマン効果として良く知られていますが、 このエネルギー差に相当する周波数のマイクロ波を照射すると、そのエネルギーを吸収して、状態Aから状態Bへ移ることができます。 これが共鳴現象です。状態AとBのエネルギー差は外からかけた静磁場の強さに比例しますが、 共鳴するマイクロ波の周波数は、以下のようにあたえられます。

f=(γ/2π)×H……………(1)
γ:磁気回転比 H:静磁界

状態Aと状態Bのエネルギー差は、静磁界に比例しますから、もし1T(テスラ)の磁界中にあるプロトンの場合は、 この共鳴周波数は 42.6MHzになります。したがって、42.6MHzのマイクロ波を照射すると、吸収が起き、AからB状態に励起されることになるのです。 しかし実際に、共鳴を起こさせるためには、このマイクロ波から発生する磁界を、静磁界の方向(これをz軸とする)に直交する方向(xまたはy軸)にかける必要があります。

図2

これは図2にあるように原子核のスピンは歳差運動といって、静磁界のz軸の周りを、“こま”のようにスピンが回転しています。 そのスピン先端部分の円回転の周波数が、ラーマー周波数と呼ばれ式(1)の周波数なのです。 このマイクロ波からの回転磁界の周波数と、静磁界中でスピンの歳差運動周波数とが一致すると、スピンは螺旋回転してBの状態に変化します。

共鳴が起きると、マイクロ波が吸収されるので、マイクロ波の透過パワーをモニターしていると、共鳴時は、透過してきたパワーは吸収された分だけ、小さくなっています。 この吸収量は、プロトンの濃度に比例しますので、たとえば体の中のプロトンの密度分布を知ることができます。 実際は、たとえば人の脳の部分に外から傾斜磁界をかけておき(たとえば頭の天辺はH+aの磁界で、あごの辺りはHの磁界)、マイクロ波の周波数を固定しておき、磁界を変えていくと、共鳴条件を満たすところのスライスされた部分のみの情報を得ることができ、 断層写真を得る事とが出来ます。(xまたはy方向にも緩やかな傾斜磁界をかけて、この磁界をスイープすることにより、体のある断層面の2次元マップを作ることが可能です。)

もう一つ重要な現象があります。それは緩和現象に関することです。 図1でマイクロ波を吸収して、A状態から B状態になっても、ある時間たつと、Bの状態はエネルギーが高い状態ですから、マイクロ波を放射したり、熱エネルギーを出して、Aの状態に戻ります。 マイクロ波の照射を止めると、B状態のスピンはA状態に最終的には戻りますが、この過程を緩和といいます。 緩和現象には2つのタイプがあります。

一つは、スピンー格子緩和と呼ばれるもので、B状態のスピンのエネルギーが周囲の格子に伝わり、スピンはA状態に戻る現象です。 もう一つは、スピンースピン緩和とよばれるもので、B状態のスピンの回転位相がそろっていたのが、バラバラの位相になる現象です。 これらの時間を計るには、励起マイクロ波パルスの照射直後に、スピンが放出する電磁誘導を測定する方法や、励起マイクロ波パルス列をうまく組み合わせて、スピンの位相をあわせこみ、(スピンエコー法と呼ばれる)はかる方法があります。 これらの値は、健康状態でのプロトンの緩和時間と、正常でない局部の緩和時間が異なることがあり、多くの診断データの蓄積から、非健康状態を見つけ出し、診断に役立てられています。

このようにMRI では、電磁誘導の強さによって画像のコントラストを作っており、そのパラメターとしては、プロトン濃度、T1,T2などの値から、断面を画像処理化して、病変、異常部位の検査に役立っています。

■関連ウェブサイト
日本磁気共鳴医学会ウェブサイト内関連情報

回答作成: 平成16年度MSJ企画委員会