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【分野】 スピントロニクス
【タイトル】 巨大なスピンホール効果を示す非平衡Cu合金を発見

【出典】:Hiroto Masuda, Rajkumar Modak, Takeshi Seki, Ken-ichi Uchida, Yong-Chang Lau, Yuya Sakuraba, Ryo Iguchi, and Koki Takanashi, “Large spin-Hall effect in non-equilibrium binary copper alloys beyond the solubility limit” Communications Materials, 1, 75-1-8 (2020).
DOI: 10.1038/s43246-020-00076-0

東北大学 プレスリリース
巨大なスピンホール効果を示す非平衡銅合金を発見 〜低消費電力スピンオービトロニクス素子へ道〜」2020年10月14日

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/10/press20201015-01-spin.html

【概要】

単体元素では極めて小さなスピンホール効果しか示さないCuとIrから構成されるCu-Ir合金に着目し、合金組成を傾斜させた薄膜試料におけるスピンペルチェ効果の熱イメージングと高調波ホール電圧測定を組み合わせることで、Ptに匹敵するほどの大きなスピンホール効果を出す非平衡Cu-Ir合金が存在することを発見した。

【本文】

東北大学金属材料研究所の関剛斎准教授、増田啓人大学院生、Yong Chang Lau特任助教、高梨弘毅教授の研究グループは、物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点の内田健一グループリーダー、Rajkumar Modak NIMSポスドク研究員、井口亮主任研究員、桜庭裕弥グループリーダーと共同で、材料の高速スクリーニング手法と高精度なスピンホール効果の定量評価技術を駆使して新しいスピンホール効果材料の探索に取り組み、Ptに匹敵するほどの大きなスピンホール効果を出す非平衡Cu-Ir合金が存在することを発見した。

今回研究グループは、単体元素としては極めて小さなスピンホール効果しか示さないCuと Irの組み合わせに着目し、広範なCu-Irの合金組成においてスピンホール効果の大きさを調べた。研究グループはまず、コンビナトリアル成膜技術によって合金組成傾斜膜を作製し、動的熱イメージング技術を用いてスピンペルチェ効果を可視化した。その結果、スピンペルチェ効果によって生じる温度変調が最大を示したIr濃度が25%付近において、スピンホール効果が増大している可能性が示唆された。そこで、高調波ホール電圧測定によりCu76Ir24合金薄膜におけるスピンホール角を定量評価したところ、6.3%の大きなスピンホール角を示すことが明らかとなった。

Cu-Irの二元系合金の固溶限は10%程度と狭く、例えばIr濃度25%のバルク試料ではCuリッチ相とIr リッチ相に二相分離する。ところが、薄膜の作製プロセスは気相からの急冷過程であるために非平衡合金を作り出し易いことに着目し、実際に全組成域において強制固溶体ができていることを確認した。今回の成果により、非平衡合金の持つ高いスピントロニクス機能が明らかとなり、これまで探索されてこなかった非平衡相に着目することで、今後も新しいスピンホール効果材料が発見される可能性が大いにある。また、配線材料であるCuをベースとするCu-Ir非平衡合金は、重金属元素やトポロジカル絶縁体などと比較して、エレクトロニクス素子の製造プロセスとの相性が良いと考えられ、スピンホール効果を動作原理とするスピンオービトロニクス素子の低消費電力化に貢献でき、素子開発がより加速するものと期待される。
(文責:東北大金研 梅津理恵)

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