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【分野】 スピントロニクス

【タイトル】 反強磁性薄膜のテラヘルツ帯での異常ホール効果の室温測定に成功

【出典】
Takuya Matsuda, Natsuki Kanda, Tomoya Higo, N.P. Armitage, Satoru Nakatsuji, Ryusuke Matsunaga,
“Room-temperature terahertz anomalous Hall effect in Weyl antiferromagnet Mn3Sn thin films”
Nature Communications 11, 909 (2020) DOI: 10.1038/s41467-020-14690-6

JST プレスリリース
「反強磁性金属薄膜のテラヘルツ異常ホール効果を観測 ~高速情報処理に向けた
スピン秩序の1ピコ秒高速読み出しを実現~」2020年2月14日
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20200214/index.html

【概要】
強磁性体並みに大きな異常ホール効果が報告されているMn3Sn 材料に対し、高精度に偏光の角度を測定可能な測定系を用いて、テラヘルツ帯での高速な異常ホール効果の観測に成功。異常ホール電導度のTHz 以上での周波数依存性や、温度依存性を評価した。高速なダイナミクスを示す反強磁性体の応用へ期待。

【本文】
反強磁性体は、強磁性体に比べて高速な磁化応答のダイナミクスを示す系が報告されており、高周波数帯でのスピントロにクスへの応用が期待されている。従来、反強磁性体はネットな磁化を持たず、外場への応答も小さいため、シグナルが小さく、読み出しが困難という課題を抱えていた。
2015 年に中辻らによって報告されたMn3Sn 系では、室温で 20 Ω-1cm-1 という大きな異常ホール効果が報告された(1)ことで、反強磁性体の応用への期待が高まっていた。
これに対し、東京大学物性研究所の松田拓也、松永隆佑 らのグループは、薄膜化した試料に偏光した光を照射すると、系の異常ホール効果に対応して透過した偏光の角度が回転することを利用して、偏光角度を高精度に測定可能な分光システムを用い、薄膜化したMn3Sn試料にパルスレーザーを照射、試料を透過したパルス光の偏光角度を高精度に分析することによって、テラヘルツ帯での異常ホール効果の測定に成功したと報告した。報告によれば、測定に用いるパルスの周波数が1 THz 程度では異常ホール効果の振幅はDC測定とほぼ変わらず、1 THz を超えたあたりから損失が見え始めるとの結果。また温度依存性も測定評価し、250 K 以下ではオーダーステイトの転移に対応すると考えられる異常ホール電導度の低下がみられる結果も報告している。反強磁性体を用いたTHz オーダーでの駆動、読み出しを行うスピントロにクス技術への応用が期待される。

1. Nakatsuji, S., Kiyohara, N. & Higo, T. Large anomalous Hall effect in a non-collinear antiferromagnet at room temperature. Nature 527, 212–215 (2015)

(キオクシア 板井翔吾)

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