146.01

【分野】スピンエレクトロニクス

【タイトル】デバイス中の活性な原子を探る

【出典】“Probing a Device’s Active Atoms”, M. Studniarek, U. Halisdemir, F. Schleicher, B. Taudul, E. Urbain, S. Boukari, M. Hervé, C-H Lambert, A. Hamadeh, S. Petit-Watelot, O. Zill, D. Lacour, L. Joly, F. Scheurer, G. Schmerber, V. Da Costa, A. Dixit, P.A. Guitard, M. Acosta, F. Leduc, F. Choueikani, E. Otero, W. Wulfhekel, F. Montaigne, E.N. Monteblanco, J. Arabski, P. Ohresser, E. Beaurepaire, W. Weber, M. Alouani, M. Hehn, M. Bowen, Advanced Materials 29, 1606578 (2017).

【概要】
FeCoB/MgO/FeCoB 磁気トンネル接合(MTJ)素子のオペランド放射光X線吸収分光測定を行い(O-K吸収端)、素子中のO原子のスピン依存伝導への影響を調べた。FeCoB/MgO界面近傍に形成されるFe原子と結合したO原子の放射光励起に伴い、素子の電気抵抗値に明瞭な変化が見られた。得られた結果は原子スケールでの局所構造(Fe-O結合)がMTJ素子の性能に大きな影響を与えていることを示している。

【本文】
近年、デバイス動作環境下での分光測定を行うことにより、対象試料のデバイスとしての機能評価や、動作原理を明らかにすることを目的に、オペランド分光測定による研究開発が盛んに行なわれている。Institut de Physique et Chimie des Matériaux de Strasbourg (IPCMS)(仏)のMichał Studniarekらの研究チームはFeCoB/MgO/FeCoB MTJ素子を作製し、オペランド放射光X線吸収分光(XAS)測定を行った。XASは埋もれた界面の電子状態を元素選択的に抽出できるだけでなく、配位原子の種類や配位数および結合距離等、対象元素の化学結合状態や局所構造の違いに非常に敏感である。O-K吸収端でのオペランドXAS測定の結果(測定温度:20 K、MTJ素子への印加電圧:10 mV)、XASスペクトル中にはMgO層中のO原子の他に、FeCoB/MgO界面近傍のFe原子のΔ1(eg)状態およびΔ5(t2g)状態と結合したO原子(Fe-O結合)、およびSiO2ゲート絶縁膜中のO原子に由来するピークが観測された。平行磁化状態における電気抵抗値がΔ1状態の励起エネルギー位置で有意に変化し、最小値をとったことから、Fe-O結合がスピン依存伝導に重要な役割を果たしていることが示された。電気抵抗値の減少はFe-O結合の放射光励起に伴うFeCoB/MgO界面近傍でのスピン依存伝導に関与する電子数の増大が原因と考えられる。さらに、実験結果と理論計算との比較より、放射光励起(O-K吸収端エネルギー)によってMgO障壁中におけるΔ5電子の状態密度の減衰が強まり、トンネル磁気抵抗比が増大する(〜約0.5%)ことも明らかになった。

【添付図】
タイトル「MTJ素子のオペランド放射光X線吸収分光測定」
MTJ素子のオペランド放射光X線吸収分光測定
(東京大学 物性研究所 宮町俊生)

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