111.02

分野:
磁性材料
タイトル:
Feリッチハード磁性化合物NdFe12の理論的電子状態と磁性を解明
出典:
Takashi Miyake, Kiyoyuki Terakura, Yosuke Harashima, Hiori Kino, and Shoji Ishibashi, “First-Principles Study of Magnetocrystalline Anisotropy and Magnetization
in NdFe12, NdFe11Ti, and NdFe11TiN”, Journal of the Physical Society of Japan 83, 043702 (2014), http://dx.doi.org/10.7566/JPSJ.83.043702
 
 
概要:
産総研(つくば)の三宅隆主任研究員らは最もレアアース含有量の少ないハード磁性化合物として知られるNdFe12-xTixおよびその窒素侵入型化合物の電子構造と磁性を理論計算し、窒素原子の侵入に伴う電子密度変化から結晶場パラメータの変化を見積もるとともに、窒素侵入による磁性変化の起源を電子論的に解明した。
 
 
本文:
産総研(つくば)の三宅隆ナノシステム研究部門主任研究員らは密度汎関数法第一原理計算により最もレアアース含有量の少ないハード磁性化合物として知られるNdFe12-xTixおよびその窒素侵入型化合物の電子構造と磁性を計算し、窒素原子の侵入に伴う電子密度変化を実空間で視覚化するとともに、Ndサイトで4f電子殻が感じる結晶場パラメータの変化を見積もった。仮想化合物NdFe12は24.89μB/fuのスピン磁気モーメントと、Ndサイトの2次の結晶場パラメータ(A20<r2>)が-83Kの容易面異方性を持つが、窒素原子が侵入するとNdFe12Nのスピン磁気モーメントは26.13μB/fuに増加し、結晶場パラメータは413Kの強い一軸異方性に変化する。構造安定化のため導入されるTiは磁化の大きな低下をもたらすが、Ndの周りの電子密度分布を変化させ、NdFe11Tiでは結晶場パラメータが正値54Kに変化する。さらに窒素原子の侵入によりNdのc軸方向の電子密度が増加する結果、結晶場パラメータはNdFe11TiNでは439Kに増加し、極めて強い一軸異方性の発現に帰結する。Ti置換による磁化の大きな減少はマジョリティースピンバンドがほぼ満たされたNdFe12の3dバンドのフェルミ準位より高エネルギー側にTiの3d非占有準位が形成されることに帰着される。また、窒素侵入によるスピン磁気モーメントの増加は窒素の2p軌道とFeの3d軌道との混成の結果、フェルミ準位近傍に反結合準位が現れ、マジョリティースピンバンドではそれが占有されるがマイノリティースピンバンドでは非占有となることに帰着される。NdFe11TiN化合物は磁石材料としては実用化されていないが上記の研究により優れた物性値を持っていることが示唆された。一連の高Fe濃度の軽希土類化合物の電子構造と磁性への理解が進むことで、新たな鉄リッチ磁石材料の創出につながることが期待される。

(物質・材料研究機構 元素戦略磁性材料研究拠点 広沢 哲)

磁性材料

前の記事

111.01
スピントロニクス

次の記事

111.03