76.02

分野:
磁気記録
タイトル:
超高密度HDDに向けたマイクロ波アシスト記録の基本技術を開発
出典:
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構プレスリリース 2010年11月5日(金)「次世代超高密度HDDに向けたマイクロ波アシスト記録の基本技術を開発」
http://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/press/EF/nedopress.2010-11-02.9718160145/ J. G. Zhu, X. Zhu, and Y. Tang, “Microwave Assisted Magnetic Recording,” IEEE Trans. Magn. 44, 125 (2008)
M. Igarashi, Y. Suzuki, H. Miyamoto, and Y. Shiroishi, “Effective Write Field for Microwave Assisted Magnetic Recording,” IEEE Trans. Magn. 46, 2507 (2010)
 
 
概要:
従来の磁気記録方式による記録密度の限界を超えるための方法としてマイクロ波を用いて磁気記録を補助する方式(以下、マイクロ波アシスト記録)が提案されている。スピントルク発振方式を用いた微細マイクロ波発生素子の基本技術を開発し、それを用いたマイクロ波アシスト記録の原理を実験的に確認した。
 
本文:
 

ハードディスクドライブ(HDD)の小型化や消費電力の低減のためにはHDDの記録密度を高めることが必須である。これまで従来の垂直磁気記録方式の改良によって記録密度の向上が図られてきたが、現行方式では記録磁極から発生できる磁束密度の大きさに限界があるために記録密度は制限され、1平方インチあたり1テラビット程度が限界と考えられている。

マイクロ波アシスト記録は、マイクロ波によって記録媒体の磁化に磁気共鳴現象を引き起こすことで磁化に局所的に反転しやすくし、磁気記録を補助する方式である。いままで、計算機シミュレーションを用いたマイクロ波アシスト記録の効果が予言されたほか、外部マイクロ波発生源からマイクロ波を印加して磁性体の磁化反転を確認した報告がなされてきた。しかし、実際のHDDにおいて高密度記録に供するためには、マイクロ波を発生する微細素子を記録ヘッドに搭載しなければならない。

2008年にJ. Zhuらから、その道を開く可能性がある微細素子構造として、スピントルク発振素子のアイデアが提唱された。磁化方向が固定された固定層および自由層からなる積層磁性体に電流を流すと、固定層磁化の作用により分極した電子スピンが自由層に流れる。適切な条件下ではこの電子スピンからの磁気トルク作用により自由層の磁化が一斉に回転し、自由層近傍にアシスト記録用の高周波磁界が発生する。この状態はスピントルク発振を呼ばれている。しかし、スピントルク発振素子によってマイクロ波アシスト記録が可能であることを示唆する実験的な検証はなされておらず、その実証が待たれていた。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が推進するプロジェクトのもと、日立製作所および日立グローバルストレージテクノロジーズ(以下、日立)は、強い高周波磁界を発生することが可能なスピントルク発振素子を試作し、10ギガヘルツ帯の高周波発振現象を確認した。さらに、今回試作したスピントルク発振素子を垂直磁気記録向けの記録媒体と組み合わせてマイクロ波アシスト記録の検証を行なった。記録媒体に磁化反転が発生しない弱い磁界を印加した状態において、記録媒体上にスピントルク発振素子を近接させ、同素子近傍の磁化のみが局所的に反転することを確認した。

NEDOおよび日立は、スピントルク発振素子を用いたマイクロ波アシスト記録が実現可能であり、同記録方式を用いることで、1平方インチあたり3テラビットの記録密度が実現可能であることを計算機シミュレーションにより確認したと述べている。

(日立中研 根本広明)

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