94.01

分野:
磁気物理
タイトル:
大きな磁気異方性を持つTbCo薄膜の光誘起磁化反転
出典:
“Light-induced magnetization reversal of high-anisotropy TbCo alloy films”S. Alebrand, M. Gottwald, M. Hehn, D. Steil, M. Cinchetti, D. Lacour, E. E. Fullerton, M. Aeschlimann, and S. Mangin, Appl. Phys. Lett. 101, 162408 (2012).
 
 
概要:
 異方性定数3×106 erg/cm3という大きな磁気異方性を有するTbxCo1-x合金薄膜において円偏光誘起磁化反転を観測した。フェムト秒・ピコ秒パルスレーザーを照射したところ、特定の組成において磁化反転が起こることが分かった。磁化反転可能な組成は補償温度が室温とキュリー温度との間にある物であった。
 
 
本文:
 光のみで磁化反転が可能な物質としてフェリ磁性体であるGdFeCo合金が知られているが、Gdが磁化への軌道モーメントの寄与がなく磁気異方性が小さいため、垂直磁気記録媒体への応用は難しい。Alebrandらは、Gdに代わり軌道モーメントの大きいTbを置換したTbxCo1-x合金薄膜に着目し、組成x=12~34%の間での光誘起磁化反転を試みた。試料はこの組成領域で全て室温強磁性であり、それぞれx=12%,16%(Region I)は補償温度Tcompが測定温度(室温)よりも低く、x=23%,26%,28%,30%(Region II)ではTcompは室温よりも高い状態である。それ以上の組成(Region III)では補償温度は持たない。磁化反転実験には波長532nm、パルス幅10ps、および波長780nm、パルス幅400fsの2種類の円偏光パルスレーザーを用いた。磁化反転の検出にはファラデーイメージング法を用いた。
 その結果、Tcompが室温よりも高いRegion IIにおいて左右円偏光に依存した磁化反転が起こることが観測された。またレーザー強度を変化させると、強度が上がるにつれて、磁化反転無しの状態から光誘起磁化反転の状態へ移ることが観測された。さらに過度のレーザー強度では単純な熱的消磁が見られた。Region IとRegion IIIでは円偏光依存の磁化反転は起こらなかった。またRegion IIにおいて詳細に実験すると、x=23%,26%ではピコ秒・フェムト秒パルスのいずれの光源でも磁化反転が起こるのに対し、x=28%,30%ではピコ秒パルスでのみ磁化反転が起こることが分かった。これは2つのレーザーの波長が異なることが関係しているかもしれない。一方、磁化反転に必要なレーザー強度の閾値については磁気異方性の大きさと関係あることが分かった。

(東大物性研 谷内敏之)

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