120.01

分野:
磁気物理
タイトル:
交換相互作用を用いた単一スピン磁気異方性の制御
出典:
“Control of single-spin magnetic anisotropy by exchange coupling”
Jenny C. Oberg, M. Reyes Calvo, Fernando Delgado, María Moro-Lagares, David Serrate, David Jacob, Joaquin Fernánd-Rossier and Cyrus F. Hirjibehedin,
Nature Nanotechnology 9, 64 (2014).

概要:
 絶縁体窒化銅(Cu2N)を1原子層成長させたCu(001)基板上に遷移金属Co単一原子を吸着させ、その磁気異方性や近藤共鳴状態を磁場中極低温走査トンネル顕微鏡により直接観測した。分光測定の結果、Co単一原子の磁気異方性の吸着位置依存性が観測された。磁気異方性エネルギーはCo単一原子がCu2N島中央に吸着した場合に最大値を示した。吸着位置がCu2N島端に移るにつれて磁気異方性エネルギーは減少し、加えて近藤共鳴状態が観測された。得られた結果はCo単一原子とCu2N島を介したCu(001)基板間の交換相互作用の強度変化により説明できる。
本文:
 次世代情報記録装置や量子コンピュータ中の磁気素子の担い手として、ナノ磁性体に関する研究が近年、盛んに行われている。吸着基板との電子的結合強度に代表される周辺環境の違いが、ナノ磁性体の磁気的安定性を左右する磁気異方性に与える影響を明らかにすることは応用上、必要不可欠である。University College London(英)のCyrus F. Hirjibehedinらの研究チームは絶縁体原子層窒化銅(Cu2N)島を成長させたCu(001)基板上にCo単一原子を吸着させ、その磁気異方性の吸着位置依存性を磁場中極低温走査トンネル顕微を用いて詳細に調べた。Co単一原子の磁気異方性エネルギーは非弾性トンネル分光(IETS)測定を行い、磁気異方性エネルギーに比例するスピン−フリップ非弾性励起を検出することにより見積もられた。スピン−フリップ非弾性励起は微分コンダクタンス中にステップ構造として現れる。Cu2N島の中央部に吸着したCo単一原子のIETS測定の結果、約10 meV付近にスピン−フリップ非弾性励起由来のステップ構造が観測された。Co単一原子の吸着位置がCu2N島の端に移るにつれて励起エネルギーは減少し、さらに、ゼロバイアス近傍に現れ始めたピーク構造のピーク高さの増大が確認された。観測されたピーク構造はCo単一原子の近藤共鳴状態に由来することから、Cu2N島端ではCo単一原子とCu2N島を介したCu(001)基板の伝導電子間の交換相互作用が強くなり、Co単一原子の磁気異方性が弱められていることを示唆している。また、Co単一原子の各吸着位置付近のCu2N島の分光測定の結果、Cu2N島中央から端に分光測定位置が移るにつれて、エネルギーギャップ幅の減少が観測された。このことはCu2N島端ではトンネル障壁が小さくなり、Co単一原子−Cu(001)基板間の交換相互作用が強化されていることを意味しており、得られた実験結果を説明できる。

(東大物性研 宮町俊生)

スピントロニクス

前の記事

1.09
磁気応用

次の記事

78.01