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最近の国内会議から:2004放射光学会

円偏光軟X線による元素選択的磁気ヒステリシス測定

JASRIの中村らは、SPring-8のBL25SUにおいて左右円偏光を反転しながら軟X線吸収磁気円二色性(MCD)を測定する装置を完成させた。これにより磁場反転をせずにMCDの信号を測定することが可能となり、MCDによる元素選択的磁気ヒステリシス(ESMH)曲線が得られるようになった(9P56:SPring-8・BL25SUにおける軟X線電磁石MCD装置の開発)。
MCDとは円偏光X線を強磁性体試料に照射したときの吸収量が左円偏光と右円偏光で異なる現象のことである。その強度は特定元素の吸収端付近でのみ強くなりその元素の磁化のみの情報を反映する。従ってMCDの磁場依存性は元素選択的に磁気ヒステリシス曲線を測定していると考えてよい。従来のVSMやSQUIDなどによるヒステリシス測定ではバルクは化合物全体の磁化、薄膜であれば基板ごと全ての磁化を測定する。従って磁性元素が2種類あるときはそれらを区別することが出来ない。また、薄膜などで磁性元素が非常に微量であれば、基板などの常磁性成分が大きく磁化の強磁性成分のみを測定することが不可能となる。それに対して、ESMHでは、ある磁性元素の吸収端に入射光のエネルギーをチューンすることによりその磁性元素のみの情報を得ることが出来る。したがって、バックグラウンド(常磁性成分)の影響がなく、多元系磁性化合物の元素別の磁化ならびにナノドット、ナノワイヤーなどの基板上に成長している強磁性元素の磁化の振舞などを知ることができる。
JASRIの中村らはすでにアモルファスTbFeCo薄膜を構成する各元素Tb,Fe,Coごとの磁気ヒステリシス曲線の測定に成功している。今後はとくに対象となる磁性元素が微量しか存在しない強磁性体材料やナノスケールの構造をもつ高密度磁気記録媒体の材料の評価手段に威力を発揮することが期待される。

(SPring-8/JASRI 水牧 仁一朗)

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