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第210回研究会/第73回ナノマグネティックス専門研究会報告

“スピン”の可視化とその操作

日 時:
2016年11月18日(金)13:30~16:40
場 所:
中央大学駿河台記念館
参加者:
32名

 動的な“スピン”構造を可視化する計算・観察手法と、その制御をテーマとして研究会を開催した。全5件の講演で構成され、永久磁石の反転核生成に関する理論的解析、フェリ磁性体の角運動量補償点を利用した磁壁の高速移動、スピン偏極走査トンネル顕微鏡による原子・分子レベルでのスピン観察、放射光やレーザーを用いた磁化ダイナミクスの観察手法についての報告がなされた。幅広い分野からの講演であったが、いずれの講演も、最新の情報に加えてわかりやすい導入が織り込まれた専門外の参加者にも興味深く聴講できる構成であり、非常に活発な討論が行われた。

  1. 「Nd2Fe14B磁石の原子論的モデルにおける確率的Landau-Lifshitz-Gilbert法およびモンテカルロ法による磁化反転解析スピントルクによる自励発振の物理」
    ○西野正理1,宮下精二21物材機構,2東大)

     確率的Landau-Lifshitz-Gilbert(LLG)法を用いて原子論的スピンモデルに温度効果を取り入れたダイナミクスの方法論が示された。この方法は厳密に熱平衡へ向かうダイナミクスを与えることができる。確率的LLG法およびモンテカルロ法をNd2Fe14Bの原子論的モデルへ適用して熱力学的性質を再現できることが示され、磁気ドメイン壁の幅やその温度依存性が明らかにされた。磁化反転での核生成やドメイン壁伝搬の動的性質についても触れられ,マクロな物性測定から見積もられるドメイン壁の幅と原子論的モデルのシミュレーションにより直接求められるドメイン壁の幅は良く一致することが示され,ミクロな解析の有効性について述べられた。

  2. 「フェリ磁性体の角運動量補償点における磁壁ダイナミクス研究」
    ○キム カブジン1,東野隆之1,奥野尭也1,Woo-Seung Ham1, Sanghoon Kim1, Yunboo Jeong2,
    Gyoungchoon Go2, Kyung-Jin Lee2, 塚本 新3, 森山貴広1,小野輝男11京大,2高麗大,3日大)

     二つの磁区を隔てる磁壁の制御によるストレージやロジックデバイスが提案されている。フェリ磁性体を利用することで、これらのデバイスの実現に必要な高速な磁壁の移動が達成できることが示された。希土類-3d遷移金属のフェリ磁性体ではそれぞれの副格子の磁気モーメントが反強磁性的に結合しており、磁気モーメントおよび角運動量が消失する二つの補償温度が存在する。磁場中で磁壁の移動速度を測定したところ、角運動量の補償温度に近づくにつれて磁壁の移動速度は急速に増大した。この結果は,角運動量の補償温度で実効的なジャイロ磁気定数が発散することで理解することができ、角運動量がフェリ磁性体の磁化ダイナミクスに重要な役割を担っていることを示すものである。

  3. 「放射光光電子顕微鏡で視る磁気情報とダイナミクス」
    ○大河内 拓雄(JASRI/SPring-8)

     光電子顕微鏡法(Photoelectron emission microscopy, PEEM)は光照射により表面から放出される光電子を結像する顕微鏡であり、放射光X線を光源として用いることで、X線吸収(XAS)やX線磁気円/線二色性(XMCD/XMLD)に基づいた情報を約10-100 nmの空間分解で得られる。本講演では、PEEMの基礎原理と特徴、SPring-8に設置されたPEEM装置を用いた磁性研究の成果、最近の技術開発の現状などが紹介された。

  4. 「極限スピン観察と制御:SP-STM」
    ○山田豊和(千葉大)

     スピン偏極走査トンネル顕微鏡(Spin Polarized Scanning Tunneling Microscope (SP-STM))は、原子レベルで試料表面のスピン偏極度ベクトル分布を可視化できる磁気イメージング手法である。2000年のSP-STMの誕生以後発展を続けており、2016年現在では世界18か所でスピン偏極トンネル電流の検出に成功していることが紹介された。SP-STM探針は漏れ磁場が小さく探針表面がスピン偏極している必要があり、磁性探針の開発が最重要事項となっている。測定環境は超高真空中,室温から極低温,測定対象は磁性薄膜、単一原子・分子、グラフェン、有機分子、超伝導と幅広くなっている。今後はスピン偏極度ベクトルの定量的解析手法の開発が重要となってくることが述べられた。

  5. 「光によるスピン波励起とその伝播過程イメージング」
    ○橋本佑介,齊藤英治(東北大)

     全光ポンプ=プローブ磁気光学イメージング法を用いて、パルス光照射により励起されたスピン波の励起伝搬ダイナミクスを観測した結果について紹介があった。CCDカメラと並列コンピューティングによる解析を用いることにより100 μm角のエリアでの大面積かつ100フェムト秒時間分解能での高速計測が可能となる。講演では、ガーネットフェリ磁性薄膜上へ適用した結果について触れられ、ポンプ光によるフォノンとマグノンの励起について議論がなされた。

文責:菊池伸明(東北大)