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日本応用磁気学会応用磁気セミナー報告
「走査型プローブ顕微鏡による磁気測定技術」
 

日時: 2000年12月8日(金)9:30〜16:45
場所: 機械振興会館
参加者: 44名

近年、磁気記録、光磁気記録などのストレージ技術の高密度化に伴って、サブミクロン以下の微小な領域の磁気的な性質を評価する技術に対する要求が高まっている。一方、走査型トンネル顕微鏡から発展した走査型プローブ顕微鏡(SPM)技術は微小な領域のさまざまな物理量の測定に大きな威力を発揮するようになってきている。また微小な領域の磁気的性質を計測するための工夫もいろいろと検討されている。本セミナーでは、このような背景を鑑み、走査型プローブ顕微鏡による磁気測定技術をわかりやすく解説することを目的とし、下記の6件の講義を行った。

1. 走査型プローブ顕微鏡の基礎:末岡和久(北大)
2. 磁気力顕微鏡(MFM)像の解析方法:斉藤 準(秋田大)
3. 近接場磁気光学顕微鏡の現状と課題:佐藤勝昭(農工大)
4. SQUID顕微鏡の現状と応用について:茅根一夫(セイコーインスツルメンツ)
5. 走査型マイクロ・ホール・プローブ顕微鏡による可変磁界中でのリアルタイム磁区観察: サンドゥー・アダルシュ(東海大)
6. スピン偏極STMの原理と応用例:鈴木義茂(電総研)

 末岡氏はSPMの磁気計測への応用を概観した後、SPMの基礎として、基本装置構成、帰還制御技術、カンチレバー作製法および原子間力顕微鏡、磁気力顕微鏡に代表される走査型力顕微鏡技術をわかりやすく解説した。ついでSPM技術の応用として氏の所属する研究グループで進めている将来のSPM技術である交換力顕微鏡(EFM)および走査型磁気抵抗効果顕微鏡(SMRM)の開発状況が紹介され、今後の発展に期待をいだかせる内容であった。
  斉藤氏はMFMの特徴、プローブと試料との相互作用を解説した後、MFM像の解析で重要となる観察試料上の磁極を発生源としたプローブの伝達関数について述べた。ついでプローブ伝達関数に基づくMFM信号変換を用いた表面磁極解析法が,磁気記録媒体の磁気クラスターの解析に有効であることを示した。またMFM像解析の今後の課題である高分解能化および高精度化の動向について述べた。
  佐藤氏は近接場光学の歴史を概観した後、透過型および反射型の近接場磁気光学顕微鏡(MO-SNOM)に関する現状と課題について解説した。MO-SNOMにおいては試料近傍で近接場光を発生させる光ファイバープローブの選択とその偏光補償が重要であり、セイコーインスツルメンツと共同で開発した透過型ではPt/Coディスクで解像度100nm程度のMO-SNOM像が得られることを示した。反射型では集光に放物面反射鏡を用いて得られたPt/CoディスクのMO-SNOM像の例が紹介された。
  茅根氏はSQUID顕微鏡の特徴および原理を解説した後、自社で開発したSQUID顕微鏡の現状と応用例について述べた。分解能はミクロンオーダーであるが、SQUID素子の大きさに依存しており,磁場の定量性を保つうえで大幅な小型化は難しい。しかし,他の磁場測定法と比較して極めて高い検出感度(10-15〜10-6T/√Hz)を有するので、微小磁場の検出に有効であることが示された。現在測定温度範囲の上限は100Kであるので上限温度の増加が望まれる。本装置は高速応答性を有するので磁場を介した電子回路の電流分布計測等への応用も期待される。
  サンドゥー氏は走査型マイクロ・ホール・プローブ顕微鏡(SHPM)の原理を解説した後、開発したSHPMを用いたガーネット、フロッピーディスク等の各種磁性材料に対する可変磁界中でのリアルタイム磁区観察結果を紹介した。試料との距離制御はホールプローブに隣接して作製された金膜STM探針を用いることで行っている。分解能はホールプローブのサイズで決まり,サブミクロンオーダーであるが、高い検出感度(4×10-6T/√Hz、300K)、早い応答速度を有するので、磁壁のダイナミクス等リアルタイムでの磁区観察に有効であることが示された。
  鈴木氏はスピン偏極STMの原理であるスピン依存トンネルを解説した後、最近急展開を見せているスピン偏極STMの現状について述べた。強磁性探針を用いた場合として、CoFeSiBアモルファス軟磁性プローブの磁化を高周波磁界で変調する方法によりCo(0001)面で得られた分解能2nmの磁区像、Fe蒸着プローブを用いて試料間のバイアス電圧を変調することで得られたGd(0001)面における磁区像およびbcc-Mn(110) 面で得られた反強磁性スピン配列像を紹介した。また光励起・発光を利用したスピン偏極STMの進展についても紹介し,磁区像の信頼性の向上にはダイナミックなスピンの制御が重要であることを述べた。またスピン依存非弾性散乱を検出する偏極バリスティック電子放出顕微鏡は、数nmの分解能をもちかつ比較的容易な測定法として期待されることを報告した。
  セミナーでは、大学院生を中心に学生が15名、企業、大学等から29名が熱心に聴講し、活発な質疑があった。

(秋田大 斉藤準)